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関岡清次
SEKIOKA KIYOTSUGU

関岡清次

関岡クリニック 院長

異色の研究人生を歩んだ、
IT医師の地方医療革命。
三重県志摩半島にある南伊勢町。伊勢志摩国立公園のリアス式海岸と低い山を背景に風光明媚な光景の中にクリニックはある。この街から最先端の医療に挑む医師が関岡クリニックの院長を務める関岡清次氏。50歳まで大学で過ごした院長は研究者であり開発者、さらにプログラマーとしての顔をもつ。その経歴は医療機器を使いこなす下地となり、医療のIT化にも活かされている。未来の地方医療のひとつの答えである、その取り組みに迫る。
関岡清次
地方でも最新医療ができると証明するために

「医学部ではなく工学部志望だった」という関岡氏は、学園紛争の影響で東京から地元の三重大学医学部に入学した。当時は解剖ひとつとっても腰が引けていたそうだが、次第に医学のおもしろさに目覚めていく。

もともと研究者気質であったため、大学にそのまま残り研究、実験を行う日々を過ごしてきた。研究者としての経験が、自身のクリニックでの診療に活かされているという。

「研究者というのは基本的に1人でなんでもトライアルするんです。臨床の現場だとCTにしてもMRIにしても技師に頼むのですが、研究の場合自分で動かすしかなかった。そうした経験があったから検査機器を使いこなせるようになりました」

クリニックには 心臓・冠動脈も検査できる高速精細三次元CT(3DCT)、ハイビジョン内視鏡、超音波エコーなど最新の検査設備がふんだんに取り入られている。こうした検査設備をそろえることで、専門である循環器系の診断だけでなく、あらゆる患者に対応できると語る。

「当院は南伊勢町だけでなく、伊勢市や志摩市など近隣からも患者さんがいらっしゃいます。循環器の不調のほか、肺炎や外傷、腰痛、膝痛、皮膚疾患、はたまた耳の調子が、なんて方も多いんです。そうした専門外の症例であっても、CTや内視鏡などを使ってしっかりと検査ができれば判断を間違えないし、場合によっては専門医よりも高度な診断も可能になります。とりあえず様子を見ましょうではなく、診断に自信を持って前向きに切り込んでいけるし、その後の治療も効率的に取り組めます」

日本人の死因で最も多いのが癌であり、続いて心臓、脳などの動脈硬化性疾患だ。これらを日常診療で見逃さず、早期に診断するには3DCT、内視鏡、超音波エコーの駆使は重要である。 実際にそうした精度の高い診断装置を数多く導入することで、正確な診断や重症度の判断をする上でも大いに役立つことは言うまでもない。とくに重篤な疾患によっては半日、1日の遅れが生命を左右するため、そうした早期の診断や治療の開始は必要不可欠なのだ。

また従来、入院治療が行われてきた肺炎など多くの感染症や心不全は 3次元CTや内視鏡等での正確、迅速な初期診断で科学的安心のもと、重症例を除いて外来治療に移行できる(科学的ダウンサイジング)。これによって入院による身体拘束や医療費などが削減可能で、効率的医療が期待される。

関岡クリニックは医師一人で志摩地区の救急対応の医院としても機能しており、関岡氏が出張など不在にしていない限り患者を受け入れているため、ほぼ休みなく24時間稼働し続けていることも特筆すべき点だ。高精細3DCTや血液生化学迅速検査機器を設備することで夜間、診療時間外の救急にも自信をもって積極的に対応しており、そうした患者の立場にたった細かな配慮が、患者に喜ばれる要因の一つとなっている。「大変ですが、それが生きがいじゃないですか」と笑う当人は、今の医療活動に充実感があるという。

「研究者時代は開業医なんて町の修理屋さんぐらいにしか思っていなかった。しかし、いざ開業してみると地域医療ではオールラウンドに診られなければ意味がない。患者さんたちも私を頼ってきてくれます。この人たちの命を預かっているからには、ちゃんとした仕事をしたい、そう願っています」

関岡清次
ITを駆使できるのが良い医師という時代に

関岡氏には医療のIT化を実践する医師としての顔もある。工学部志望だけあって、コンピュータ創成期から研究に取り入れ、プログラミングの2冊の専門書まで執筆したという経歴は、日本でも数少ない高度なITスキルを持つ医師の証でもある。

「MRIをテキストファイルで打ち込んで稼働させる時代からコンピュータを使っていました。超音波エコー装置の新たな信号処理法の研究や留学先のジョンズ・ホプキンズ大でも循環器の実験研究に自身でプログラムを開発し使ってきました。
大学では、若い医師の研究指導・支援のほか、工学部情報学科や電子工学科修士課程の学生さんの医用生体工学研究の指導を15年以上行い、名古屋大学工学部の非常勤講師も行っていました。
クリニックでは3DCT、内視鏡、超音波エコー等の画像は検査後、サーバーに自動保存され、血液生化学検査、24時間心電図など各種検査機の解析結果も直ちにサーバーに保存。診断の迅速化と効率化がなされています。各種診断設備とサーバー、電子カルテのネットワーク構築及びサーバー組み立ては医師自身でしており、その具体的方法は講演したスライドをホームページで見ることもできます。
これからの医療はITを活用するべきですし、医師にもそうした知識が必要になっていると思います。今地方では医師不足と言われていますが、機器を使いこなし効率化していけば人的問題は解決します。地方こそITを活用して高度な医療に取り組むべきでしょう」

現在でもトヨタの開発者やエンジニアなど有志がオンライン上に集まり、関岡氏を中心にITと医療についてのフリー討論を重ねているという。
「画像認識を使った高齢者の見守りや医療の効率化について話し合っています。実現はまだ先ですが、IT化は医療にとって必要なこと。これからは機器を使いこなせる医師がレベルの高い医師だと言われる時代です。特に今の学生には機器の取り扱いやITに関する知識を積極的に学んでいってほしいですし、医学部としてもIT医療の教育に力を入れていってほしいです」

クリニックのIT化、各種癌の画像診断、動脈硬化性疾患の画像診断のこれまでの講演実績はクリニックのホームページ 上にある「最近の発表・講演」に掲載されている通りだ。

また関岡氏は、医療対応型の特別養護老人ホーム「メディカルケア伊勢志摩」の理事長も兼任。施設の医療対応も重要な仕事として捉え、開業してからは趣味であった釣りもめっきりやらなくなったという。日常のほぼすべてを医療活動や研究などに費やしているわけだが、その情熱の源はどこにあるのか。

「人間はいつか死ぬわけですから、そこまでに自分でやり切ったと思いたいし、そういう生き方が私は楽しい。高級車に乗って、クルーザーをもってという人生もあるでしょうが、船に乗っていると時間がなくなってしまうでしょ(笑)」

学会だけでなくネットでも情報が得られる今、地方であっても情報格差はなくなっている。関岡氏のような医療活動によって患者は各地から集まり、患者が来れば設備投資も可能になる。医師のやる気と機器があれば、日本のどこにいても高いレベルの医療活動ができるのかもしれない。地方でも大都市と同じ医療ができる、その一つの成功事例がこの南伊勢にある。

関岡清次

関岡クリニック 院長
http://www.sekioka-clinic.org/
※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。